着床前診断|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来
近年、受精卵の細胞を取り出して、その細胞の染色体の分析が可能となってきました。これが、「着床前診断」と呼ばれる技術です(Preimplantation genetic test:以下PGTと略します)。
受精卵は透明帯というたんぱく質の膜で覆われていますが、顕微鏡下にこの膜にレーザーで微小な穴を作ります。そしてその穴からせり出してきた細胞の塊から5個から10個程度を採取して、ここから染色体のみを抽出して解析します。
ここで用いられる技術がコロナウイルスの検査で話題になったPCR (polymerase chain reaction)法です。このPCR法で染色体を増幅させ、染色体の数に異常が無いかを調べるのです。
1. PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は、胚移植を2回以上行っても着床しなかった方や、流産の経験が 2 回以上ある方を対象としています。
2. PGT-SR(着床前胚染色体構造異常検査)は、ご夫婦どちらかに染色体の構造異常があり、
それが不育症の原因となっている方を対象としています。
(現在着床前診断は申請予定です。)
人間の染色体は1番から22番が2対ずつ、そしてX、Yの性染色体が2本で合計46本で構成されます。受精卵は、卵子から23本、精子から23本を引き継ぎ、初めて正常な細胞となるのですが、この分裂の過程で、染色体の数が増えてしまったり減ってしまったりすることがあります。そうした受精卵はどこかで分割を停止したり、分割しても着床しなかったり、あるいは着床しても流産してしまうことが大多数です。
染色体異常の病気の中で、良く知られているのがいわゆるダウン症です。ダウン症という状態は21番の染色体が1本多い状態なのですが、21番が3本ある場合に限って、妊娠継続が可能な場合があるのです(ただし、ダウン症の7割程度は流産すると言われています)
検査には約3週間程度を要します。また、良好胚盤胞に到達した場合にのみ検査が可能となりますので、希望されても、必ずしも全員が検査が出来る訳ではありません。
着床に最も重要なのは受精卵の質です。
あくまでイメージですが、着床に関わる因子のウェートは、全体の約80%程度が受精卵の質に依存し、残りの20%程度が受精卵を受け入れる子宮側の問題、という感じだと思います。
その受精卵の質を評価するためには形態学的なグレードの評価を行います。要するに、顕微鏡での見た目の問題です。
胚盤胞の質の評価にはGardner分類と呼ばれる方法が使われます。
これは「4AB」とか「3BC」とか数字とアルファベットを組みあせてあります。数字は発育の大きさを表し、アルファベットは細胞数を現します。数字が大きい順で、アルファベットはC→B→Aの順でグレードが良いことになります。
この分類方法と着床率については明確な相関関係があります。しかし、例えば5AAという見た目としては大変良好な受精卵でも必ずしも着床する訳ではありません。グレードが良い胚でも染色体の異常を含んでいることが頻繁にあるからです。