反復着床不全|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来
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反復着床不全

反復着床不全|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来

反復着床不全とは

反復着床不全とは、決まった定義はありませんが、Polanski LTらは”3回胚移植しても妊娠しない場合”と決めていることが多いと報告しています。移植する胚の質や年齢によっても妊娠率が異なるため一概には言えません。<br< 考えられる反復着床不全の原因には、①胚の染色体異常(配偶子の質の低下(特に高齢女性))、②子宮因子(先天性子宮奇形、子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮内癒着)、③卵管水腫など付属器因子、④間違った生活習慣(喫煙や肥満など)、⑤血栓形成傾向など報告されています。ただ、原因がわからないことも多くみられます。

胚の染色体異常(配偶子の質の低下)

精子形成は思春期以降に精原細胞が細胞分裂を繰り返し精子形成しますが、女性は胎生期に一旦細胞分裂が行われ、思春期まで卵は受精の準備のために分裂を停止しています。思春期以降はこの一旦停止した細胞分裂を再開することで排卵し受精が可能になります。高齢女性はこの細胞分裂の再開の際、染色体の分裂異常が起こりやすくなります。(もちろん男性側も染色体の分裂に異常が起こることはあります。)このため、高齢になれば妊娠率が低下し流産率が上昇するといわれています。

対策

着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)が選択肢の一つとなります。ただ、すべての方に有効という報告はなく万能というわけではありません。
精子に関しても評価し、精子DNA断片化など精査することがあります。

子宮因子

子宮鏡や子宮卵管造影検査、MRIにて子宮の形態や内腔の評価を行います。

子宮内膜ポリープ、粘膜下筋腫、子宮内癒着が着床を妨げていると判断された場合は、手術にて切除・癒着剥離をお薦めすることがあります。特に子宮内膜ポリープの除去は妊娠率を改善する可能性があると報告されています(Bosteels Jet al. Cochrane Database Syst Rev. 2018;12)。

子宮筋腫や腺筋症

妊娠率の改善を図るために、症状のある筋腫(例えば、月経過多・月経困難症・腰痛)が存在する場合や子宮内腔を変形させる筋腫に対して手術は考慮されます(Bosteels J et al. Cochrane Database Syst Rev. 2018;12)。
 その他の筋腫や腺筋症に関しては、一旦採卵することで複数個の胚を確保しておきます。その後、薬物療法(GnRHaなど)を3−6ヶ月間治療を行った後、ある程度筋腫や腺筋症が小さくなって胚移植を行う方法などあります。

慢性子宮内膜炎

子宮内膜の組織を採取し、内膜に炎症があるか検査します。慢性子宮内膜炎の症状は乏しく、症状があっても出血、下腹部の不快感および白色帯下程度であります。
この慢性の炎症が胚に対する子宮内膜の受容能を変化させている可能性があり、抗生剤にて治療することで妊娠率の改善を目指します。(Fertil Steril. 2018 1;110(1):103-112.)

着床の窓のずれをみるERA検査

Igenomixによると、着床の窓には個人差があり、個々で窓の時期が早い・遅い・長い・短いなど違いがあり、着床のタイミングがずれている方がいるのではないかと報告されています。細いピペールという器具で子宮内膜を採取し236個の遺伝子の発現パターンを解析することで、着床の窓を推測し、ずれがないかを検査します。着床のずれがあれば、それを修正し移植することで妊娠率の上昇を試みます。ERA検査により妊娠率が約25%向上したという報告もあります(Ruiz-Alonso et al. Fertil Steril. 2013. Simon et al. Fertil Steril. 2016.)。
検査は子宮内膜を採取するため、わずかに痛みがあります。前もって鎮痛剤を使用し、なるべく痛みを無くして検査を行います。

子宮内フローラ検査

着床の場である子宮内に存在する菌(特にラクトバチルス属菌)の割合を調べる検査です。このラクトバチルスは、生殖器内を酸性に保ち着床に悪影響をもたらす可能性のある菌の増殖を抑制します。このラクトバチルスの割合が90%以上と90%未満では大きく妊娠率、生児獲得率が変わると報告されています(Moreno et al.AJOG,2016)。
子宮内フローラ検査は、細い器具で着床の時期の子宮内腔液を採取し、細菌叢由来のDNAを次世代シークエンサーを用いて解析し多種類の細菌を調べます。着床に良い菌と悪い菌の割合を調べることで、子宮内環境が着床に適しているか判断します。環境が悪ければ、子宮内環境を整えることで妊娠率の上昇を試みます。子宮内膜液を採取するため、こちらの検査もわずかに痛みがあります。前もって鎮痛剤を使用し、なるべく痛みを無くして検査を行います。
※Varinos社資料より

PRP療法

多血小板血漿(Platelet Rich Plasma:PRP)療法とは、ご自身の血液に含まれるさまざまな物質により、着床関連因子を活性化することで着床率の向上を目指す再生医療です。PRP は元より 4 ~ 5 倍の血小板濃度を持ち、血管内皮増殖因子 (VEGF)、トランスフォーミング増殖因子 (TGF)、血小板由来増殖因子 (PDGF)、上皮増殖因子 ( EGF)などの豊富なサイトカインや成長因子を含んでいます。当院で行うPFC-FD療法は20ccほど採血を行いそこからPRPを抽出し、さらに成長因子等を豊富に含むPFC-FD(Platelet-derived Factor Concentrate Freeze Dry:血小板由来因子濃縮物-凍結真空乾燥)に加工したものを子宮内に注入し、子宮内環境を着床率の向上を目指します。2023年に発表された論文では着床率が1.90倍、生児獲得率も2.83倍になったと報告されています(J Obstet Gynaecol. 2023 Dec;43(1):2144177.)。

子宮内膜スクラッチ

子宮内膜スクラッチは、子宮内膜を傷つけることで炎症を引き起こし膜の安定性に関与する子宮内膜遺伝子の調節、子宮内膜の血管新生の誘導により妊娠に影響する可能性が報告されています。妊娠率が上昇するという報告もありますが(Olesen MS, et al. Fertil. Steril. 2019;112:1015–1021.)、まだまだエビデンスが不足しており(効果が証明されているわけではありません)、すべての女性に行うべきではありません。痛みのある処置ですので、よく相談して行いましょう。

Th1/Th2

子宮内膜に胚が着床するには免疫機能が関わっているのは、以前から報告されています。Raghupathyらは、正常に妊娠をしている女性はTh2型に傾いていますが、流産歴のある女性はTh1型に傾いていると報告もあります。このカットオフ値をいくつに設定するかは、まだなんとも言えませんが、反復着床不全では免疫に関するTh1/2比が高いと報告されています。そこで免疫抑制剤を服用することで妊娠率の改善を試みています。
そのほかに、子宮収縮抑制剤の使用、2段階移植、SEET法、子宮内hCG投与、子宮内末梢血単核細胞(PBMC)注入、腹腔鏡にて腹腔内観察・洗浄・癒着剥離など様々な方法が試みられています。

卵管留水症など付属器因子

卵管留水症

卵管の中に分泌物が溜まり卵管が腫大する卵管留水症という病気があります。これは、クラミジア感染症や内膜症、腹腔内の手術の既往がある場合などが原因とし、着床の妨げになると考えられます。胚移植前に卵管結紮術や卵管切除術することで、臨床妊娠率が上昇すると報告されています(Melo P et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020;10(10))。

子宮内膜症

子宮内膜症は、子宮内腔でなはない部位に子宮内膜組織が存在するもので、不妊症の女性の 25% から 40% に合併していると報告されています。子宮内膜症やチョコレート嚢腫による解剖学的歪みは、卵管の閉塞・狭窄、卵の質、卵管采からの卵の回収を損なう可能性があります(Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine. Fertil Steril. 2012; 98(3):591–598.)。子宮内膜症に対する腹腔鏡手術は自然妊娠率を改善すると報告されています(Brown J et al. Cochrane Database Syst Rev. 2014;2014(3))。

生活習慣(喫煙や肥満など)

喫煙

1日1/2パックの喫煙でも、生殖能力の低下と関連しています(Bolumar F et al. Am J Epidemiol. 1996; 143: 578-587)。喫煙者と比較すると非喫煙者で1.6倍妊娠しやすくなり、12 か月以上の妊娠していない女性の割合は、非喫煙者よりも喫煙者の方が54%も多かったという報告があります(Augood C. et al. Hum Reprod. 1998; 13: 1532-1539)。これは、喫煙がヒトの生殖細胞の染色体とDNAの両方の損傷が生じる可能性があるからです。
また、喫煙者の妊娠時の合併症には、早産、子宮内発育制限、胎盤剥離、前置胎盤、早期破水、および周産期死亡率の増加を引き起こすといわれています。

肥満

肥満は、いくつもの研究で生児獲得率への悪影響が確認されており、BMI の増加と相関しています。肥満の女性における生児獲得率は、0.90倍妊娠しにくいと報告され、クラス III の肥満 (BMI > 40 kg/m2) の女性を対象とした大規模な研究では、生児獲得率が50%低下しています(Shah D.K. et al. Obstet Gynecol. 2011; 118: 63-70, Koning A.M. et al. Hum Reprod. 2012; 27: 457-467)。

ビタミンD

ビタミン D 受容体や1,25(OH)2D3 は、着床に関連する重要な標的遺伝子である HOXA10 の転写を調節します(Lerchbaum E et al. Curr Opin Obstetr Gynecol. 2014;26:145.)。
また、ビタミン D の状態は、子宮および脱落膜組織の免疫細胞を調節することにより、初期の胚着床に影響を与える可能性があります(Ganguly et al. J Endocrinol. 2018;236:JOE-17-0491.)。ビタミン D 欠乏症の不妊症の患者さんが、ビタミン D サプリメントを毎日適度に服用した場合、妊娠に良好な結果を及ぼす可能性が高いと報告されています(Meng X et al. Reprod Biol Endocrinol. 2023 3;21(1):17.)。日光を浴びることでビタミンDが上昇しますが、日焼け止めや野外に出る生活習慣がない方はサプリメントにて補充することが勧められることがあります。

銅/亜鉛

Bawaらは、銅や亜鉛の濃度と女性不妊症が相関すると報告しています(Bawa Ret al. Int J Reprod Contracept Obstet Gynecol. 2017 ;6(6):2351-2353)。また、Jeromeらは、DNA合成の欠陥が亜鉛欠乏症の不妊症の原因であることを示しています(Nriagu J. Zinc deficiency in human health.School of Public Health. 2007.
Available from: https://pdfs.semanticscholar.org/8d01/a12a1abbffae431db613b7f4e12d575258a8.pdf)。
亜鉛が低下すると銅は上昇するため、食事等による亜鉛の摂取で十分な効果が期待できない方はサプリメントや薬剤にて亜鉛を適切な濃度にコントロールする必要があります。

血栓形成傾向

一部の不育症に対しての低用量アスピリン療法や低用量アスピリン+ヘパリン併用療法が推奨されていますが、反復着床不全に対する抗凝固療法に効果があるかはまだはっきりとは分かっていません(Berker et al. Fertility and Sterility.2011; 95:2499–2502)。採血にて不育症検査を行います。

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