ヒアルロン酸を用いて精子を選別し顕微授精を行うPICSIについて
- 2023年7月1日
- 体外受精
顕微授精(ICSI)の精子を選別にヒアルロン酸を用いるPICSI(Physiological, hyaluronan-selected intracytoplasmic sperm injection)に関する報告をご紹介します。
ヒアルロン酸は、卵母細胞-卵丘複合体を取り囲む主要成分です。このヒアルロン酸に結合する精子(HA)は、成熟し精子DNAの質(精子DNAq)がよく、DNAがよく圧縮されており、残存細胞質が少ないと報告されており、このヒアルロン酸を用いて選別された精子は質が良い可能性あります。このヒアルロン酸を用いて選別した精子を使用するPICSIにより質の悪い精子が除去できる可能性があります。PICSIに関するこれまでの大規模臨床試験(Worrilow et al 2012)と小規模研究(Majumdar and Majumdar 2013)では流産率の低下が共通して報告されています。また、2019年Lancetというインパクトファクターの高い雑誌で、すべての方を対象とすると妊娠率や生児獲得率は変わらずあまり効果がないのではいかと報告されていますが、流産率はPICSI群で有意に低かったとしており、検討が必要な方法です。2023年現在、PICSIは先進医療Aとして保険診療と併用できます。
精子DNAqが低下するとIVFの成功率は低下する可能性があるため、生児獲得のために精子DNAの質の向上は不可欠と考えられています。 ICSIは、精子を卵子に直接注入するため、異常な精子の侵入を防ぐ自然の機構を省略します。DNAqとICSIの治療成績との関係はあまり明確ではありませんが、男性パートナーの精子DNAqが低いと流産のリスクが高くなると報告されています。また、質の悪い精子が除去された精子と比較して、未処理の精子を使用した方が流産のリスクが高いことを報告されています。
Robert Westらの報告では、ヒアルロン酸に結合する精子スコア(HBS)およびDNAqについて1247精子を分析し、 HBSとDNAqのすべての測定値は、正常精子群と異常精子群で有意差を認めました。ヒアルロン酸に結合する精子スコア(HBS)とDNAqの低下が精子の質の低下と関連しているのではないかと考えられます。また、ICSIとPICSIによる出生率の予測では、通常のICSI治療と比較するとPICSIすることにより、35歳以上の急激な出生予測の低下が緩和していることがみられました。また男性年齢についてもPICSI群の方が男性側の高齢による出生予測の低下を緩和していることがみられました。そのため高齢群にヒアルロン酸選択精子を使用することにより、精子DNA損傷の少ない精子をICSIに使用することで損傷した精子DNAが治療成績に及ぼす悪影響を軽減できたのではないかと考えられています。
そのため、全員にPICSIを行うのではなく、高齢カップルや精液所見の良くない男性因子を対象とし、PICSIを行うのも選択肢の一つかと思われます。