ビタミンDと流産について|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来
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医療コラム

ビタミンDと流産について|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来

ビタミンDと流産について

こんにちは リプロダクション部門 責任者の井上です。 

前回のサプリメントでも出てきたビタミンDと生殖補助医療に関する報告は多くありますが、今回は、流産とビタミンDの関係を検討したメタアナライシス(複数の研究を合わせた質の高い研究)についてご紹介いたします。

Fertil Steril. 2022 Jul;118(1):111-122.

 流産は身体的・心理的な負担を強いられ、妊娠の約15.3%におこり、世界におけるの流産を経験した女性の割合は、流産1回:10.8%、2回:1.9%、3回:0.7%と報告されています。不育症(RM; この報告では2回以上の流産と定義)のリスクは、流産ごとに10%増加し、3回以上の流産既往のある女性では42%まで増加します。早産、子癇前症、死産、うつ病、ストレスなど、産科的および心理的合併症のリスクも、RMを経験している女性で増加します。

 ビタミンD不足(25-ヒドロキシビタミンD(25(OH)D))は世界的な問題であり、妊娠中の女性や妊娠を計画している女性はビタミンD欠乏症のリスクは高くなります。ビタミンD欠乏症は、母体・新生児の骨疾患に関連していますが、妊娠高血圧腎症、妊娠糖尿病、早産などの産科の合併症を発症する女性にビタミンD欠乏症は多くみられます。
 ビタミンDの補充は安全性の高い治療法です。さらに、メタアナリシスでは、低用量の出生前のビタミンDの補充(22試験、3,725人)により妊娠高血圧腎症が0.48倍に、妊娠糖尿病が0.51倍に、低出生体重児が0.55倍に改善したと報告されています。不妊症の女性の場合、血清ビタミンDが十分であれば生殖補助医療による出産の可能性は1.3培に高くなると報告されています。

 ヒト胎盤は25(OH)ビタミンDと活性1,25-ジヒドロキシビタミンD(1,25(OH)2D)の両方を蓄積するための重要な組織であり、着床や免疫細胞機能に重要な役割を果たします。血清25(OH)ビタミンDレベルの低値は、胎盤1,25(OH)2ビタミンDの減少を引き起こし、胎盤調節不全を介し流産に関与している可能性があります。ただし、流産やRMの女性でビタミンD欠乏症が多いかは不明であります。

 このメタアナリシスの目的は、自然流産やRMを含む、ビタミンDの状態と流産との関連を評価することでした。また、ビタミンD治療が流産のリスクを減らすかどうかも評価しました。

10件の研究(n = 7,663)が選択基準を満たしました。
・ビタミンD補充と流産予防を調査する4件の介入研究(n = 666)
・母体のビタミンD状態と妊娠結果との関連を調査する6件の観察研究(n = 6,997)
が含まれています。

①ビタミンD欠乏症は流産・RMに関連しているか?
 ビタミンD欠乏群(<50 nmol / L)とビタミンDが十分な群(> 75 nmol / L)を比較したメタアナリシスでは、流産のリスクが統計的に1.94倍も有意に増加していることがわかりました(4研究)。
ビタミンD欠乏群またはビタミンD不足群(50〜75 nmol / L)とビタミンDが十分な群を比較した複合分析では、同様に流産のリスクが統計的に1.60倍も有意に増加していることがわかりました(6研究)。

ビタミンD補充は流産やRMのリスクを減らすか?
 研究の不均一性とデータ品質および報告バイアスのため、直接比較およびメタ分析はできませんでした。
Samimiによるバイアスのリスクが低い研究によると、ビタミンD補充後に妊娠したRMの女性(n = 5 / 39、12.8%)よりも対照群(n = 13 / 38、34.2%)で有意に高い流産率を報告しました。しかし、年齢、妊娠・流産歴、およびインターロイキン-23などの交絡因子を調整後は、有意な関連性はみられませんでした。Hollisらは、対照群とビタミンD補充群で流産率に統計的に有意な差は見られなかった。
Ibrahimらによる研究では、RMの女性は対照群(9 / 20、45.0%)よりもビタミンD補充群(6 / 20、30.0%)より流産率は低かったが、その差は統計的に有意ではなかった。

<まとめ>

 この報告の結論として、ビタミンD欠乏症の女性は、流産のリスクが高いことが示されました。ただ、ビタミンD補充が流産をリスクを減らすかはわからないという結果でした。

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