内分泌かく乱化学物質と妊娠について|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来
〒861-5517熊本県熊本市北区鶴羽田1丁目14-27
電話のアイコン096-345-3916
ヘッダー画像

医療コラム

内分泌かく乱化学物質と妊娠について|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来

内分泌かく乱化学物質と妊娠について

本日は、患者さんから質問のあった化学物質と妊娠について調査した報告をご紹介いたします。

 

The Role of Endocrine Disrupting Chemicals in Gestation and Pregnancy Outcomes

Nutrients. 2023 Nov 3;15(21):4657. doi: 10.3390/nu15214657.

 

 化学物質は、内分泌系のいろいろな経路に働きかけ、人間の健康に有害な影響をもたらす可能性があります。これらの化学物質は内分泌かく乱化学物質として知られ、金属、農薬、プラスチック製食品包装、難燃剤、玩具、化粧品、洗剤などの日用品など様々なものに含まれています。内分泌かく乱物質は、広範な影響の中でも、男女双方の生殖器系に害を及ぼす能力を示すことが明らかになっています。生殖への悪影響は受精前から始まり、生殖能力に影響を与えると報告されています。妊娠は環境要因の影響を受けやすい時期であり、内分泌かく乱化学物質は、食物、皮膚、呼吸器など、様々な経路を通じて妊婦にとりこまれる可能性があります。Shekhar Sらによると一部の内分泌かく乱化学物質は胎盤組織に蓄積し、機能を低下させる可能性もいわれています。ビスフェノールA、フタル酸エステル、有機塩素系農薬などの一部の内分泌かく乱物質はバリアを通過して胎児に到達します。Birksらは、胎児発育不全、低出生体重、子癇前症、妊娠糖尿病、早産、乳児死亡など、妊娠転帰の不良を引き起こす可能性があると報告しています。

 

 この報告では、生殖能力、妊娠、胎児の発育への影響に関する物質について書かれていました。

 

. ビスフェノール

 ビスフェノールは、ポリカーボネートプラスチックやエポキシ樹脂の製造に広く利用されている工業用人工化学物質です。

厚生労働省のサイトに詳しく書いてありましたのでhttps://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/80-05-7.htmlをご参照下さい。

 ビスフェノールABPA)はエストロゲン受容体の活性化を介してエストロゲン様作用を発揮することが知られています。Patel SBerger Aらは、胎児期のビスフェノールAの曝露が卵胞数を減少させ、次世代におけるエストラジオール濃度を低下させることが示されています。また、Mok-Lin E.らは尿中ビスフェノールA濃度と1周期あたりの採卵数との間に逆相関を報告されています。さらに、Wangらは、尿中ビスフェノールA濃度が高かった女性(700名)において、避妊をしていないカップルが1回の月経周期で自然妊娠する確率が30%低下し、不妊症のオッズが64%上昇したと結論付けています。

 胎盤の構造的および機能的欠陥との関連が示唆されており、子癇前症や流産などの合併症のリスクを高める可能性があります。

 

 男性の生殖能力に関しては、内分泌かく乱物質は精巣形態や内分泌機能の変化、精子のDNA損傷の増加、精液の質の低下など、男性の生殖健康に悪影響を及ぼすことが知られています。ビスフェノールAもAdoamnei Eらによると、精子運動性の低下、未成熟精子の割合の増加、および抗酸化物質レベルの低下と関連付けています。

 

 

.  フタル酸エステル(PAE

 フタル酸エステル(PAE)、さまざまなプラスチックの柔軟性、柔らかさ、耐久性を向上させるために使用され、安定剤としても利用されています。食品包装、パーソナルケア製品、おもちゃ、繊維、建築材料、医療機器などはが作られています。フタル酸エステルは、最も広く分布している内分泌かく乱物質であり、検査対象者のほぼ100%から検出されており、男性よりも女性の方が濃度は高いようです。

 フタル酸エステルは、卵母細胞の成熟と発育に関しても、女性の妊孕性に悪影響を及ぼすことが実証されている。Wang Bらによると動物モデルでは、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート(DEHP)への曝露により原始卵胞の割合が減少し、一次卵胞の数が増加しました。その結果、これらのマウスの生殖寿命は有意に短縮したと報告している。

 妊娠中、特にPPAR-γ活性化(PPARγの適切な活性化がおきないと、脂肪細胞への分化、インスリン感受性に影響する)や甲状腺機能低下との関連性から、妊娠に影響している可能性も報告されています。

 

 男性の生殖能力に関して、マウスにおいてDEHPへの曝露は、血清テストステロンレベルの低下、およびエストラジオールとLHの濃度の上昇を引き起こします。このマウスは、生殖細胞のアポトーシスの増加、乏精子症、および精細管の変性も認められました。これらの所見はすべて、組織学的評価と併せて、男性生殖機能の早期老化を示唆しているとBarakat Rらは報告しています。

 

結論として、ビスフェノールA、フタル酸エステルは生殖過程に影響を及ぼし、男女ともに生殖能力を低下させ、さらには子孫に伝達する可能性のある配偶子の変化を引き起こす可能性があります。

 

3.  有機塩素系農薬(OCP

昆虫、真菌、雑草の防除に使用され、世界中で使用される農薬の40%を占めています。ただ、日本では1970年代に使用中止となっているようです。

 

4.  ポリ塩化ビフェニル(PCB

日本では1972年に製造・使用が禁止。

 

5.  ペルフルオロ化合物(PFC

 焦げ付き防止調理器具、消火泡剤、防水衣類、防汚塗料の製造に頻繁に使用されているようです。科学的根拠は低いものの、妊娠への有害な影響との関連が指摘されています。

 

<まとめ>

 予防としては、内分泌かく乱化学物質と妊娠に関するさらなるデータ収集の必要はあるものの、内分泌かく乱化学物質の曝露を減らすことは、母子双方への有害な影響を防ぐための基本的な戦略となります。日常生活における内分泌かく乱化学物質の主な吸収源は、食品そのもの、加工方法、包装、調理方法など、食事であることは間違いありません。フタル酸エステルの場合、その濃度は様々な要因、特に食品の脂質含有量によって変化する可能性があります。動物由来の食品は親油性であるため、脂肪含有量の高い食品はフタル酸エステルの主要な供給源となると考えられており、これらの内分泌かく乱化学物質は容易に生体内に蓄積されるようです​​。その他の化学物質については、冷凍や缶詰の魚介類の摂取が、妊娠中のビスフェノールAとペルフルオロ化合物の主な供給源の一つであることが確認されています。一方、卵、牛乳、ヨーグルトは、特にフタル酸エステルをはじめとする内分泌かく乱化学物質は低いようです。缶詰や瓶詰めでなければ、果物や野菜も、内分泌かく乱化学物質は低いようです。パスタや米も同様です(缶詰や瓶詰めでない場合)。

 

 どのくらい摂取すると妊娠、児に影響が及ぼすかを言及することは困難ですが、予防としては、なるべく化学物質の暴露を減らすことが大事です。

 なかなか難しいかと思いますが、動物由来の脂肪含有量の高い加工食品、冷凍や缶詰の魚介類の摂取、ペルフルオロ化合物の含まれる焦げ付き防止調理器具等をなるべく避けた方がよいようです。

矢印のアイコン