原因不明不妊症に対するERHREのガイドライン
- 2023年10月25日
- 一般不妊
生殖補助医療モニタリング国際委員会 (ICMART) は、「原因不明の不妊症」を「明らかに正常な卵巣機能、卵管、子宮、子宮頸部、骨盤を持ち、適切な性交頻度を持つカップルにおける不妊症」と定義され、割合は約30%ほどと報告されています。この報告では年齢 40 歳以下という項目も含まれています。
「原因不明の不妊症」に対するESHREのガイドラインが発表されました。
Human Reproduction, Volume 38, Issue 10, October 2023, Pages 1881–1890
をご紹介いたします。
裏付けとなる証拠の強さに基づいて (高 ⊕⊕⊕⊕、中 ⊕⊕⊕◯、低 ⊕⊕◯◯、非常に低い ⊕◯◯◯)のグレードが割り当てられました。強い推奨事項はほとんどの患者に適用されるべきということです。
・排卵の確認
規則的な月経周期であれば、排卵の確認のため尿中 LH 測定、超音波モニタリング、黄体中期プロゲステロン測定などの検査が可能
条件付き ⊕○○○
・卵子/黄体の品質
規則的な月経周期であれば、全症例にルーチンでの黄体中期血清プロゲステロンレベルの測定は推奨できない
条件付き ⊕○○○
不妊症検査において、一般的に組織学的検査のための子宮内膜生検は推奨されない。
strong ⊕⊕○○
・卵巣予備能
規則的な月経周期であれば、不妊症の病因を特定したり、6 ~ 12 か月にわたる自然妊娠の確率を予測するための卵巣予備能検査は必要ありません。
strong ⊕⊕○○
・卵管因子
子宮卵管造影超音波検査(HyCoSy)および子宮卵管造影検査(HSG)は、腹腔鏡検査や通気検査と比較して、卵管開通性について有効な検査です。(HSG と HyCoSy は診断能力において同等。)
strong ⊕⊕⊕○
卵管開存性に関するクラミジア抗体検査は、卵管閉塞のリスクが低い患者と高い患者を区別するための非侵襲的検査と考えることができる。
条件付き ⊕○○○
・子宮因子
原因不明の不妊症の女性の子宮の形態異常を除外するには、超音波、できれば 3D が推奨されます。
strong ⊕○○○
MRI は、原因不明の不妊症の女性の正常な子宮の構造と解剖学的構造を確認するための第一選択検査として推奨されません。
strong ⊕○○○
子宮腔の超音波評価が正常であれば、さらなる評価は必要ありません。
strong ⊕○○○
・腹腔鏡検査
原因不明の不妊症の診断には、ルーチンでの診断用腹腔鏡検査は推奨されない。
strong ⊕○○○
・子宮頸部/膣の検査
性交後検査(フーナー検査)は、原因不明不妊症カップルには推奨されません。
strong ⊕⊕○○
膣内細菌叢の検査は、原因不明不妊症カップルに対して研究的には検討される可能性があります。
研究のみ
・男性の生殖器と泌尿器の解剖学
WHOの基準に従った精液分析が正常な場合、精巣画像検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
・男性追加検査
WHO の基準に従った精液分析が正常である場合、精液中の抗精子抗体の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精子のDNA断片化の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精子クロマチン凝縮検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
WHOの基準に従った精液検査が正常である場合、精子異数性スクリーニングは推奨されません。
strong ⊕○○○
WHOの基準に従った精液分析が正常であれば、血清ホルモン検査は必要ありません。
strong ⊕○○○
WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精液のヒトパピローマウイルス(HPV)検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
WHOの基準に従った精液分析が正常である場合、精液の微生物検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
・全身的な追加検査
原因不明の不妊症を持つ男性または女性の血清中の抗精子抗体の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
原因不明の不妊症を持つ女性のセリアック病(自己免疫疾患)の検査を検討することができます。
条件付き ⊕⊕○○
原因不明不妊症の女性における甲状腺抗体およびその他の自己免疫状態(セリアック病を除く)の検査は推奨されません。(TSH 測定は、妊娠前ケアにおけていいと考えられています。)
strong ⊕○○○
TSHが正常範囲内にある場合、女性における追加の甲状腺評価は推奨されない。
strong ⊕○○○
原因不明不妊症女性に血小板増加症の検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
原因不明不妊症の男性の精液中の酸化ストレスの測定は、研究の一環としてのみ考慮されるべきです。
研究のみ
原因不明の不妊症の女性における酸化ストレスの測定は推奨されない。
strong ⊕⊕○○
遺伝子検査またはゲノム検査は現在、原因不明の不妊症を持つカップルには推奨されていません。
strong ⊕○○○
女性のビタミンD欠乏症の検査は、原因不明不妊症の診断には推奨されません。
strong ⊕○○○
女性におけるプロラクチン検査は推奨されません。
strong ⊕○○○
・治療
卵巣刺激を行った人工授精は、原因不明の不妊症を患うカップルの第一選択治療として推奨されています。
strong ⊕○○○
・積極的な治療
原因不明不妊症のカップルでは、卵巣刺激を行った人工授精よりも体外受精が推奨されない可能性があります。(体外受精を行うかどうかの決定は、年齢、不妊期間、以前の治療、以前の妊娠の有無など個別に決定されます。)
条件付き ⊕○○○
原因不明不妊症カップルにおいては、顕微授精より精子をかけるだけの媒精が推奨されます。
strong ⊕○○○
・機械的・外科的処置
いつもの診察で見られない子宮内異常の検出の可能性を目的とした子宮鏡検査は推奨されません。
strong ⊕⊕○○
油溶性造影剤を使用した卵管造影検査は、水溶性造影剤よりも好ましい。 油溶性造影剤による卵管フラッシュのリスクと利点については、原因不明不妊症カップルと検討する必要があります。
条件付き ⊕⊕○○
子宮内膜スクラッチは、原因不明の不妊症の場合には行われるべきではありません。
strong ⊕⊕○○
代替治療アプローチ
不妊治療を受けている女性に対する補助的な経口抗酸化療法は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕○○○
不妊治療を受けている男性に対する補助的な経口抗酸化療法は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕○○○
女性への鍼治療は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕⊕○○
女性におけるイノシトールの補給は推奨されない可能性がある(probably)。
条件付き ⊕○○○
というESHREの発表がありました。