精子所見が正常の場合、媒精が良いか顕微授精が良いか?|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来
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医療コラム

精子所見が正常の場合、媒精が良いか顕微授精が良いか?|北くまもと井上産婦人科医院 リプロダクション部門|熊本市北区にある不妊治療専門外来

精子所見が正常の場合、媒精が良いか顕微授精が良いか?

こんにちは リプロダクション部門 責任者の井上です。

本日は、”精子所見が正常の場合、媒精が良いか顕微授精が良いか?”検討した報告をご紹介いたします。

 体外受精において、せっかく採卵したのに全ての卵が受精しなかったという経験をしばしばしますが、それを避けるために精子は問題ないが細胞質内精子注入法 (ICSI) を実施するクリニックも多いかと思います。van der Westerlakenらによると、精子をふりかけるだけの体外受精 (cIVF) により受精しなかった場合、次回以降に ICSI した場合、受精率が有意に高いことを発表しています。また、Kinzer らは、cIVF で受精せずICSIした場合、臨床妊娠率および分娩率に悪影響を及ぼさないことを発表しています。しかし、完全受精不全はまれであり(cIVF サイクルの 5% ~ 10%)、非男性因子不妊症の場合はさらに頻度が少ないと報告されています。そのため、今回、このような非男性因子不妊症カップルにおいてcIVFが良いかICSIが良いか調査しています。

 

Fertility and Sterility Vol. 118, No. 3,  2022 0015-0282

 ICSIは、精液所見に問題がありcIVF では妊娠できなかったカップルのための有望な技術として 1992 年に導入されました。ICSI は当初、男性不妊症に対して導入されましたが、男性不妊症以外に行われICSIの使用率が高まっています。1996 年に採卵サイクルの 36.4% が ICSI を行われましたが、 2012 年には 76.2% に増加したと報告されています。米国生殖医学会 (ASRM) の実行委員会は、非男性因子不妊患者における ICSI の日常的な使用を支持するデータが不足しているため、男性因子不妊の場合にのみ ICSI を行うことを委員会の意見として発表しています。
 すべてICSIにすると成熟卵のみICSI が行われているため、未熟卵の胚発生の可能性が減少し、CLBR が損なわれる可能性があります。そのためこの研究の目的は、全国データに基づいて受精方法(ICSI と cIVF)に対する CLBRを比較し検討を行っています。

結果
対象者の24,984人(60.2%)にICSIが行われ、16,533人(39.8%)にcIVFが行われました。

 CLBR は、ICSI 群で 60.9% 対 cIVF 群で 64.3% であり、共変量の調整後に有意差はありませんでした。流産率にも差がありませんでした。 ICSI 群では、採卵あたりの 正常受精率が有意に低い値であり(64.6% 対 66.4%)、正常受精あたりの使用可能な胚 (移植および凍結) の比率が有意に高い結果でした (53.7% 対 51.7%)。

 次に、PGT-A を行った 5,450 例を対象とし、4,762 人 (87.4%) が ICSI を、688 人 (12.6%) が cIVFが行われました。CLBR は、非男性因子不妊症の PGT-A を使用したサイクル間で、ICSI群で 64.7% 対 cIVF群で69.0% であり、共変量の調整後に有意差はありませんでした。 2群間での流産率にも差はありませんでした。 ICSI 群の採卵あたりの正常受精率 (65.1% 対 67.6%)、正常受精あたりの胚 (移植および凍結) の比率 (50.3% 対 54.2%)、および移植および凍結された胚の数が少なかった。 (5.19 対 5.70)。しかし、ICSI 変数によって説明されるこれらの比率の分散はわずかでした。

 最後に、採卵数の少ない群に限定したサブ解析では、採卵数が3 個以下で PGT-A を受けた群で、CLBR にICSI と cIVF を比較しても差がないことがわかりました。また、PGT-Aを受けなかった群でも、ICSI を cIVF と比較しても差はありませんでした。採卵数の少ない群では、採卵数あたり 正常受精率と、移植・凍結可能胚の平均数は、遺伝子検査の状態に関係なく、ICSI と IVF の間で有意差はありませんでした。
 料金に関して、ICSI は cIVF のみに比べて推定 $1,500 の追加費用がかかることがわかりました。これは、サイクルごとに推定 $12,400 の費用がかかると報告されています。

結論
 この報告によるとCLBR とコストを考慮すれば、非男性因子不妊症患者におけるICSIの一般的な実施は受け入れられないことが示されました。もちろんケースバイケースで、受精方法をICSIかcIVFにするか決定するのは、各方法のメリット・デメリットを話し医療者と患者さんと決めていく必要があります。

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