胚盤胞の虚脱は妊娠に影響する可能性あり
- 2023年11月30日
- 体外受精
胚盤胞の虚脱についての報告がありましたのでご紹介いたします。
Human Reproduction, Volume 38, Issue 10, October 2023, Pages 1891–1900
妊娠率の高い胚を選択する手段としてさまざま開発されてきています。胚盤胞の見た目でグレードをつけるガードナー分類があります。また、ヒト胚のタイムラプス顕微鏡法(TLM)は、世界的に多くの体外受精クリニックで採用されています。このTLM は、培養条件をほぼ変えることなく、胚を詳細に観察できます。この動的形態変化を観察することで、いままでは分からなかったdirect cleavage(1つの割球から3つ以上に分裂する細胞分裂)やreverse cleavage(2つ以上の割球が1個にあわさってしまう)分裂を観察することが可能となりました。また、将来人工知能 (AI) ツールにより、このようなマーカーなど胚選択をさらに改善する可能性があります。
胞胚腔の自然虚脱(SC)は、胚の生存率のマーカーの可能性があると多数報告されているものの 1 つです。 収縮または縮小としても知られる SC は、ヒト胚盤胞の 7 日目までに発生する可能性があり、通常はSC後に再拡大が起こります。2022年のCimadomoらの報告では、胚盤胞SCの有無で胚盤胞の優先順位を下げるために使用できる可能性があるとしています。
この研究では、異数性、妊娠率、出生率、流産率の観点から、SCの予後因子として総合的に評価しています。
SCの定義の一つとして、栄養外胚葉表面の50%以上や20%以上が透明帯から分離されている胚盤胞というのもや胚盤胞の容積が50%減少したものがありました。
7つの研究からのデータを統合した結果、SCの発生率は37.0%(n = 6801)でした(17.2%〜56.2%)。
・妊娠率
SC を1個以上含む胚盤胞移植は、SC のない胚移植よりも継続妊娠率が有意に減少しました。PGT-A の有無によるサブグループ解析では、正倍数性胚群と未検査の胚盤胞群の両方でSCを1個以上認めた胚の継続妊娠率が減少しました。
・生児獲得率
SC を1個以上含む胚盤胞移植は、SCのない胚盤胞よりも出生率が減少しました。PGT-A の有無によるサブグループ解析では、SC を1個以上を含む正倍体胚盤胞は、SCのない胚盤胞よりも出生率が低いも、統計的に有意差はありませんでした。しかし、SC を1個以上含む未検査の胚盤胞は、SCのない胚盤胞よりも出生率が有意に減少した。
少なくとも1個のSCを認めた胚盤胞移植とSCのない胚盤胞移植と比較した場合の出生率に有意差は検出されませんでした。Bodriらは多変量解析後、胚盤胞 SC 数と出生との間に明確な関連性がないと報告しました。 さらに、Cimadomoらも、SC 胚盤胞 (生存またはその後変性) の割合と採卵ごとの累積出生率との間に関連性がないと報告しました。
・正倍数性率
メタ解析では、SC の胚盤胞はSCのない胚盤胞よりも正数性率が低いことが示されました。
Cimadomoらは、SC の発生と正数性の間の相関関係を報告しています。
・流産率
SC を1個以上含む胚盤胞移植では、SCのない胚盤胞移植よりも統計的に有意ではないものの流産率が高くなることが示されました 。
<結論>
このメタ分析によると、SCは正倍数性および妊娠率に悪影響を及ぼす可能性があり、胚盤胞の出生率のマーカーとしてSCが挙げられるましたが、SCの定義が研究により異なりさらなる研究が必要であります。ただ、一部の出生率と流産率の差は統計的に有意ではありませんでした。
胚盤胞虚脱の原因はわかりませんが、Togashiらはナトリウムポンプの機能や細胞接合構造が維持できず水分が奪われ、栄養外胚葉細胞が損傷することによりSCがおこる可能性を報告しています。再膨張にはかなりの量のエネルギーが必要となるため、SCは胚盤胞への損傷と関連している可能性があります。